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「田中いいやつだったんだけどな。」
病院の屋上で同室の山さんが隠し持ったタバコを吸いながら目を細めた。やはり仲間がいなくなるのだけはどうしても慣れない。いつもは断るが今日は一本もらった。せめてもの手向け。紫煙はオレンジ色の空に消え、夕焼けは悲しいほど綺麗だった。

病室に戻ると田中さんのベッドが空いている。荷物も綺麗に片付けられ物悲しい。

「奥さん辛いな。」
病室で誰かがポツリといった。笑顔が素敵な和菓子屋の主人だった田中さん。「ハワイで饅頭を売るのが夢なんだ」退院したら必ずと笑ってた。

病室では不思議な仲間意識が芽生える。普段出会えないような人とも生活を共にすると絆ができる。
田中さんの死を悼む病室の仲間が家族のようだと僕は思った。せめて天国では笑顔でいてほしい。

その夜、僕は確かに見てしまった。
暗い廊下を歩く死んだはずの田中さんを…。


隙間から覗いた顔は妖しく嗤って見えた。
ミステリー・推理
公開:21/08/22 18:31
更新:21/08/22 23:20
人喰い病院②

空津 歩( 東京在住 )

空津 歩です。

ずいぶんお留守にしてました。

ひさびさに描いていきたいです!


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https://twitter.com/Karatsu_a

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