深夜図書館

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その図書館は真夜中に開く。人の往来が途絶えた深夜に薄暗い灯り。通りがかりに入った人はあまりに静かな館内に違和感を感じてすぐに出てゆく。変わっているのは開館時間だけではない。所蔵する書籍は全て「嘘に関する本」ばかりなのである。古今東西の嘘を集めた「嘘の歴史」、嘘について考察を極めた「嘘の哲学」、自然科学の嘘を追求した「嘘の科学」そして政治経済社会における嘘を列挙する「嘘のあれこれ」。
少なくない図書館利用者で夜が更けるまで熱く静かな空気が流れる。ほとんどリピーターである。愉しみに嘘を読み耽る人、嘘を調査する人、嘘を信じたくない人、新しい嘘を作る人などいろいろであるが、嘘を好むという点で嗜好が一致する。
夜明け間近に図書館は閉まる。ぞろぞろと出てゆく人たちは疲れた顔もみせず、それぞれ仕事につくため明るくなった街の電車の駅に急ぐ。それぞれの社会のなかで今日もたくさんの嘘を見つけるために。
その他
公開:21/08/22 14:25

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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