蛍のケムリ

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 夜ベランダに出ると、向かいのマンションにチカチカと光が見えた。
「あの光はなに?」
 振り返って父に聞くと、目を細めながら「蛍だよ」と教えてくれた。
 その時は幼心にきれいだなあと思ったもの。父が言っていた蛍が偽物だとわかるのは、数年後の林間学校でだった。

 夏風に吹かれながらそんなことを思い出す。
「ねえ、煙いんだけど」
 窓の向こうから娘が言う。
「蛍だよ」と返そうかと思ったが止めた。
 目に映る都会の風景の中。
 数年後には蛍もいなくなってしまうのかな。
 そんなことを思いながら、煙草を消して白い溜息をひとつ、ついた。
その他
公開:21/08/21 21:36
更新:21/08/22 09:18

碧色あをゐ

引っ越しをして、通勤時間が増えました。
なにをしようか考えた末が今です。
日々に少しのスパイスを。

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