現状記憶繊維

大掃除中、両親の楽しそうな声が聞こえてきた。アルバムでも見ているのだろうか？
覗いてみると二人が見ていたのは洋服だった。
「懐かしいなぁ…これ、あの子が５歳の時に着ていた服だろう？」
「そうそう、お気に入りで脱ぐのをいつも嫌がっていたわ」
まるで写真を見ているかのように思い出話に花を咲かせる両親。よく覚えているものだ。
「そりゃ覚えているさ。この服は現状記憶繊維で出来ているんだ。丈夫で破れない、記憶する洋服だ。この洋服にはな、お前が着ていた頃の現状が保存されている」
父は洋服をビデオテープのような箱に入れるとビデオデッキへと挿入した。
「見ろ。これが服が記憶している、お前の子供の頃だ」
「現状記憶に加えて形状記憶にもしておいてよかったわ。今でもちゃんと再生される」
映像を見て、楽しそうに笑う母。流れる映像に私は顔を赤くする。もう！やめてよ！
…でも、いいねこれ。私も息子に買ってあげよう。