未だ見ぬ君の顔(かんばせ)を

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朝起きてテレビをつけると、朝顔がニュースを読み上げている。画面が変わって向日葵が天気予報を告げ、僕は食パンをかじりながら鞄を提げて玄関に向かう。
「お弁当忘れてるわ」
追い掛けてきたカーネーションが茎をすくめ、赤い花を左右に振る。
「ありがとう母さん。行ってきます」
弁当を受け取り家を出る。庭で遊ぶ猫じゃらしを撫でてやり、井戸端会議中の桜並木に挨拶し、花電車に揺られて学校へ行く。花壇と化した教室で、色とりどりの菊先生に授業を受ける僕達は、真上から見れば植物図鑑そのものだろう。

花の顔(かんばせ)という言葉通り、本当に花に変わったのか、それとも僕の目だけが変になったのかは分からない。
前より少し華やかさを増した世界は、今のところ平常運転を続けている。
一つ問題があるとすれば、
「おはよう藤木君」
そう言って笑う君の姿はなぜか人間のままで、僕は君が何の花なのか、知りたくて仕方ない事くらいだ。
青春
公開:21/08/23 14:46
更新:21/08/23 14:50
ラジオ『月の音色』 月の文学館 テーマ:名もなき花の話

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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