配達員の孤独

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花金の夜。誰かと一杯ひっかけに行きたいが、おれには誘える相手がいない。ひたすら繁華街を自転車で駆け抜け続ける。街にはこれだけたくさんの人が歩いているのに、おれを知る人が誰もいないのはなぜだろう。

疲れて路地裏のベンチに腰を掛けると、足元に散らかったゴミの中に注射針なんかが混じっていて、おれは無性に家に帰りたくなった。こんな場所は長居するところじゃない。だが、おれの家はどこにあるのか。急に喉が渇いてきた。もしかすると、おれは記憶を失ってしまったのかもしれない。そうだ、あり得ることだ。ただ、もう少し手がかりが欲しかった。おれは内ポケットからスマホを取り出し、そこに表示された住所に目を留めた。これがおれの家かもしれないではないか。どうやら遠くの正面に見える一軒家がそうらしい。さあ、勇気を奮ってドアをたたこう。
 「ご苦労さまです」
ああ、ようやく思い出した。おれはデリバリーの配達中だったのだ。
ミステリー・推理
公開:21/08/23 02:09
更新:21/08/23 02:11
記憶 シティライフ 孤独

アカサカ・タカシ( Chicago )

2022年から米国シカゴ在住。

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