いちど座れば

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「私は議員の◯◯だ。知らない?勉強不足だな。実は私、腰痛持ちでね。この店はいい椅子があると聞いたんで」
店主は頷いて、店内の不思議な椅子を一つずつ指し示した。
「こちらはトラック運転席の椅子。長時間座る方にお勧めです。そちらは取調室の椅子。長居したくない人向けです」
やがてある椅子に座った男は、思わず感嘆の声を上げた。
「お見事、それは政治家の椅子です。ただ私はお勧めしませんが。大きな欠点があるのでね」
その途端、廊下の火災報知器が鳴り響いた。次第にキナ臭い煙が漂ってくる。だが何故か男は椅子から立ち上がることができなかった。
「おい、これじゃ逃げられないぞ!」
店主は表情のない目で男を見返した。
「―その椅子の欠点はね、あまりに座り心地が良すぎて立てなくなるのですよ。たとえ身近にどんな緊急事態が起ころうとね。自分の身は自分で守らねば。失礼」
一人残された男の足元に、煙がじわりと絡みついた。
その他
公開:21/08/20 17:55
ブラック柴子、参上(笑) #133

秋田柴子

2019年11月、SSGの庭師となりました
現在は主にnoteと公募でSS~長編を書いています
留守ばかりですみません

【活動歴】
・東京新聞300文字小説 優秀賞
・『第二回日本おいしい小説大賞』最終候補(小学館)
・note×Panasonic「思い込みが変わったこと」コンテスト 企業賞
・SSマガジン『ベリショーズ』掲載
(Kindle無料配信中)

【近況】
 第31回やまなし文学賞 佳作→ 作品集として書籍化(Amazonにて販売中)
 小布施『本をつくるプロジェクト』優秀賞

【note】
 https://note.com/akishiba_note

【Twitter】
 https://twitter.com/CNecozo

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