目覚めた男

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意識が戻ると、硬く冷たい場所に寝かされていた。
体に力が入らない。目が開けられない。声も出せない。状況が分からない。

ドアが開く音がした。目を開けられないので、耳を澄ませてみると、数人の足音と話し声がする。
「主任、またお昼カレー…」
「好きなんだ。…で、今日は?」
「子猫を助けて撥ねられた方だそうです」
そうだ、車に撥ねられたんだ。子猫を助けに行こうとする子供を、押し除けて…。
「そして意識も戻らぬまま、こうして…」
「事故の状況や死因をハッキリさせるぞ。裁判でも、この解剖記録は証拠になる」
俺を解剖する気か?
そうか、解剖直前に蘇生したんだ!待て、俺は生きてる!殺すな!
「それでは、始めます」
やめろ!

ぐぅ〜。

「ん?今の音は…遺体から?大変だ!」
ずっと寝たきりだった俺は、カレーの残り香に反応するほど空腹だった。
この後、カレーの匂いは死者をも起こすと噂になった。
その他
公開:21/08/20 18:00

お弁当係

2021年7月、投稿開始。
小説を読むのが好きですが、書くのも楽しそうで始めてみました。
読んでいただければ幸いです。
 

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