レイコードと霊音機

14
10

音楽に関するものなら何でも揃うというレトロな楽器店を訪れた。
店内には心地よいクラシックやジャズが流れ、いい雰囲気だ。
ふと、一枚の埃がかかったレコードとアンティークなホーン付き木製の蓄音機に目が行った。
すると、髭が似合う白髪の店主が話しかけてきた。
「お客さんは、お目が高い。こちらの品は、ただのレコードと蓄音機ではないんです。レイコードと霊音機といいまして、霊の声を聴くための代物です。
日本では古来から祭りで死者の言葉を伝えるイタコという霊感を持った巫女がいますが、こちらの品は、音楽の都ウィーンで作られた舶来品で、イタコと似たようなものです。
ただ、イタコと違うのは、霊の声が生前の肉声なので、より信憑性があります。
試聴されてみますか」
店主がレイコードを霊音機のプレーヤーにセットすると、ホーンから懐かしい声が聴こえてきた。これは間違いなく亡き祖父の肉声だーー。
そして静かに合掌した。
その他
公開:21/08/21 07:11
音楽 レトロ 楽器店 クラシック ジャズ レコード ホーン 蓄音機 イタコ ウィーン

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容