036.花園

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 特異な感染症に罹ったことにより、わたしは嗅覚を失った。回復の見込みがないという事実は、調香師であるわたしにとっては死の宣告にも並ぶものだった。だが、業界の人間はそんなわたしを見放すどころか、むしろ貴重な人材として、ある仕事を依頼してきた。
 それは最上級の香水の原花全てが揃った、全ての調香師が憧れる場所"メモリーズ・ガーデン"の管理者を任せるというものだった。
 歓喜よりも、なぜ調香師としての技能を失った自分が?と、当然の疑念が浮かぶも、依頼主からは-

『技術を持ち、技能を持たない者が必要だからだ』

 と返されるだけだった。
 その真意は、憧憬の場に就いて間もなくに知る事になった。
 香水の原花が醸す香りに魅入られ、腹上死してしまった盗賊の姿を見ることによって。
 感覚が死んだ者でしか、この空間では生きられない。
 しかし、その恍惚とした死に顔にも、わたしは憧憬を抱いてしまっていた。
ファンタジー
公開:21/08/21 00:20
ファンタジー 香水

Arujino( 東京都練馬区 )

まずは、こんにちは。

練馬区で活動中の、趣味の絵描きです。

小説・脚本なども執筆してます。

【番号なし】 用語・設定解説

【Ⅰ】 連載作品『WonDer BroS』 探偵と怪盗の対決が娯楽化した世界での物語。

【Ⅱ】 短編連作『Story Of Dri(P)Party』

【Ⅲ】 連載作品『根源悪の牧場』 戦争による差別と弾圧に支配された世界での物語。

【Ⅳ】 連載作品『ドライワンダーに遣う』

【001~】 短篇集『short TaleS』
 

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