あの夏の記憶

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父が変わってしまったのは母の死が大きい。それから父は怪物になってしまった。僕への野球指導に盲執する化け物に。

僕が甲子園で"怪物"と呼ばれたのも皮肉な話だ。

人生を賭けて野球を叩き込んだ僕の敗北は父には受け入れ難い現実だったろう。

その事実を否定するために、八百長に関わった生徒を借金に沈めたり、バットで襲ったりと見境がなかった。
探偵の彼が監督をここに呼び出さなければ、確実に父に殺されていたことだろう。
八百長により僕の試合を、いや、父の最高傑作を汚した張本人なのだから。

「もうやめよう父さん、僕らは負けたんだ。」
野球帽の父が俯きながら姿を見せる。
あの夏の記憶。スタンドから差した疑惑の光、父の持った母の遺影の反射がその正体であることは僕しか知らない。
話す必要もない。なぜならそれが僕らが負けた理由ではないからだ。

全力を出し負けた。それだけが、目の前に横たわる事実なのだから。
ミステリー・推理
公開:21/08/18 20:10
更新:21/08/18 20:12
あの夏の記憶⑨ 最終回

空津 歩( 東京在住 )

空津 歩です。

ずいぶんお留守にしてました。

ひさびさに描いていきたいです!


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