順延参り

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「自営やったんで連休は必ずズラして休む人やったんですわ。ほんで俺らにはどっか連れてったるから学校休め言うて無茶苦茶でしたわ」
男は墓石の花立に花を活け「俺ら言うて下に妹がおりますねや」と笑顔で応えた。
お盆を過ぎての墓参りは別に珍しい事ではない。
ただその男は毎年決まってお盆を過ぎてから墓参りに来るので住職は何気に声を掛けた。
香炉に線香を置き手を合わせた。和尚も隣で手を合わせる。
「親父が死んだ時、そんな死んだ瞬間から線香の煙なんかで満足するんやろか、て。
おい、隆。俺にも寿司とビール持ってこい言うてる気がしてならんかった」
「それで毎年この時期に」
「混雑するお盆にわざわざ行けるかいや。言うてズラしてますわ絶対」
住職は墓石を見つめた。「親孝行な息子さんだ」
「あの…コレ後でちゃんと持って帰りますんで」
袋から出した物に住職は笑顔で頷きその場を後にした。
拝石に焼鳥と缶ビールが並んだ。
その他
公開:21/08/17 14:14
更新:21/08/17 18:20

吉田図工( 日本 )

まずは自分が楽しむこと。

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