聞き捨て取材

2
2

戦没者慰霊碑の前で私を出迎えてくれたのは中年の男の霊だった。
『そうか…もう終戦して76年も経つんだな。今の平和を見ていると、俺も命を懸けた甲斐があったものだ』
そう笑う男に私は何も言えないでいた。彼は日本が勝ったと信じて疑わない。負けた事を絶対に悟られてはいけない。
毎年お盆の時期、慰霊碑に戦没者の幽霊がやって来る事がある。
時に彼らは戦争で負けた事実にショックを受け、悪霊化してしまう事がある。
『なぜ降伏した!?なぜ戦わなかった!?なぜ!?何故!?』
彼らは知らない。長崎と広島に原爆が落とされた事を。
もう少し早くに降伏していればこんな事にはならなかったかも…なんて、口が裂けても言えない。
私はただ、彼らの話を聞く。彼らが満足して、再びこの世を去ってくれるまで。
私は彼らの話を聞き捨てる。戦争をやって良かった事なんて何一つない。
やりたくもない取材を毎年している私はつくづくそう思う。
公開:21/08/15 20:41
更新:21/08/15 20:42

幸運な野良猫

元・パンスト和尚。2019年7月9日。試しに名前変更。
元・魔法動物フィジカルパンダ。2020年3月21日。話の流れで名前変更。
元・どんぐり三等兵。2021年2月22日。猫の日にちなんで名前変更。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容