天平線(てんへいせん)

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陸に地平線、海に水平線があるように、空には「天平線」があるのを知っているかい。
天平線は、この世とあの世の境界線で、普段は行き来ができないよう目に見えない高い壁のようなものが聳え立っている。それは中国にある万里の長城の比じゃない。
天平線には、門番のような守衛がいて姿形が鬼にそっくりで、不用意に近づくと稲妻を落とされる。雷雲の中に天平線が隠れていることが多いんだ。
お盆の時期に「地獄の釜の蓋も開く」というけれど、あれは、お盆の間だけ天平線の門が開き、あの世の者がこの世に戻ってくるのさ。
そして、この世でゆかりのあった場所や人を訪ねに行って、京都の五山送り火を合図にあの世へと帰っていく。
遅れると大変さ。天平線の門が閉まってしまい、次に門が開くまで地縛霊や浮遊霊となって、この世で過ごさないといけない。
だから、急いで天平線へ向かって昇ろうとしているところに、生き別れた君と会えて嬉しかったよ。
その他
公開:21/08/15 07:16
地平線 水平線 この世 あの世 稲妻 雷雲 お盆

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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