ピアノの宇宙

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ステージの上で、鋭く息を吸う音がした。

直後、弾が胸に食い込んだ。
ピアノから撃たれた、音の弾だ。
響きが消えても、胸に感触が鈍く残る。

ピアノは黒い戦車だった。
息を緩める間もない。連打し、連射される音はホールの壁や天井に跳ね返り、四方からも飛んでくる。

透き通った音の粒が、なめらかな流れをつくり始めた。空間を貫く銃撃に交り、それは観客の頭上で渦を巻く。
重いビートが衝突した。弾ける不協和音。
見えない流星群は、衝撃で飛び散った。かと思えば、凝縮し、また新たなうねりが生まれる。

ピアノから放たれる音の宇宙。
吸い込まれないよう、観客は座席につかまっている。
旋律は加速しながら巻き上がる。
ホールの震えが最高潮に達する時、一際重いビートの隕石が。

隕石が砕けた。渦が散った。と同時に、観客席に重力が戻る。

音の破片が降り注ぐ中、
ステージには、ピアノだけが残されていた。
ファンタジー
公開:21/08/14 07:00
曲を聴いて書いてみた ピアノ 宇宙 音楽 埋め込みができなかったので 元の曲はコメント欄に↓

字数を削るから、あえて残した情報から豊かに広がる世界がある気がします。
小さな話を読んでいると、日常に埋もれている何かを、ひとつ取り上げて見てる気分になります。

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