ゴリラズ

「笑い事じゃないですよ」
私は医師の目を睨んだ。
「実際、とても困っているんです」
医師の男はまだ苦しそうに笑いながら、眼鏡を外して涙を拭った。
「すみません、ちなみにそのゴリラ、こういうやつですかね」
私はタブレットの画面をじっと見た。
「そうです。背中が白くて、頭の上がこぶみたいになっている」
医師は大きく二度頷いた。
「統合失調症の一種なんですが、なにせ事例が少なくて、ちょっと実験しましょう」
「実験？」
医師はこほん、と咳払いをした。
「ところで英会話教室の成果はいかがです？　私は独学でVERSANT、72点でしたが」
医師の身体がみるみる巨大化し、あっというまにゴリラの姿に変身した。
「これは……」
ゴリラはタブレットの画面をタップした。音声が再生される。
「マウンテンゴリラです。マウンティングに対する嫌悪感が、幻覚を生み出しているのです」
眼鏡の奥で、つぶらな瞳がウィンクした。