病み上がり

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爽やかなものを口にしたい。

熱がひいた朝。目が覚めると、口がひどく乾いていた。
力の入らない身体を起こして、冷蔵庫を開ける。ゼリーに、スポーツドリンク。
少し口に入れた。食が進まない。けれどまだ、乾いている。

何もすることはないけど、空気がこもった家から出た。
紫陽花色の空に、ちぎれ雲が咲き渡っていた。
地平線には、檸檬を輪切りにしたような太陽。

雨が上がったばかりらしい。空気中に溢れる水分には、どこからか流れてくる柑橘系の香りが混じっている。香りの粒がぶつかって肌を湿らせていく。
頭上の紫陽花色が、水彩絵画のように滲んで街に下りかかってくる。

息を深く吸いこむ。思わず空に向かって、口を開けた。

病み上がりには、雨上がり。
誰かにそう教わったのを、思い出した。
ファンタジー
公開:21/08/11 21:10
雨上がり

字数を削るから、あえて残した情報から豊かに広がる世界がある気がします。
小さな話を読んでいると、日常に埋もれている何かを、ひとつ取り上げて見てる気分になります。

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