312. さよならの地点

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肌の上の赤っぽい点を見てはじめて気がついた。 またこの季節が到来していたことに。膨らみ始めたばかりのそれは、大きくなると共に痒みを連れてきた。
「仕方ない…」私は棚から薬を取り出すと、そこに二度塗り付けた。
「これで、よし」
そしてメスの蚊の気配をなるべく感じないように視線を床の方へ移し、部屋に除虫スプレーをまいた。
「ごめん、見逃してあげられなくて…」
私はそう呟くと急いで部屋を出た。思ったより支度に手間取ったのもあり、約束の時間がもうすぐそこまで迫っていた。
徒歩15分程の処にある病院へ到着すると、受付を済ませ高鳴る鼓動を無視しその時を待つ。
無事に処置を終え麻酔から覚めるとお腹にそっと手を当てた。
「もう一緒じゃないんだね…ごめんね」
日がすっかり落ちた頃ようやく動けるようになったので帰宅した。玄関のドアを開けると、今朝私を刺したであろう蚊が、リビングの白い床に寂しそうに倒れていた。
その他
公開:21/08/12 15:41
更新:21/08/12 15:48

ことのは もも。( 日本 関東 )

日本語が好き♡
18歳の頃から時々文章を書いています。
短い物語が好きです。
どれかひとつでも誰かの心に届きます様に☆
感想はいつでもお待ちしています!
宜しくお願い致します。

こちらでは2018年5月から書き始めて、2020年11月の時点で300作になりました。
これからもゆっくりですが、コツコツと書いていきたいと思います(*^^*)

2019年 プチコン新生活優秀賞受賞
2020年 DJ MARUKOME読めるカレー大賞特別賞受賞
2021年 ベルモニー縁コンテスト 入選

 

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