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漆喰の壁のレストランの個室にいた。私の前の男は作曲家だと言った。その隣はIT起業家、その友人の若手議員。それから医者と金融ベンチャー。みんな溌剌としてよく喋った。初老の男が一人、壁に向かって黙っている。「その人は?」と聞くと「彼はハイクを作るハイジンさ」みんなでどっと笑った。初老の人はイケメンでもシックでもない。レストランを出て私はなぜか彼の後ろをついて行った。川沿いの道は夜の風が気持ちよく、私の長い髪がさらさらと後ろになびいた。
「どこへゆくの?」
聞いても彼は振り返りもせず黙って歩く。その背中を見ながら私も歩き続けた。人通りが少なく暗い道になった。私はふざけて「お父さん!」と声をかけた。彼は立ち止まって微笑の顔をこちらに向けた。私も立ち止まった。なぜだかぞくっとした。父であるはずはない。彼はずんずん歩いてゆく。彼の笑いの謎を解かなければならない。私は一人で路上に立ち尽くしていた。
その他
公開:21/08/12 09:22

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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