死者の書

5
2

畳敷きの我が家、布団に眠る妹の遺体の前で。
俺は手の中の呪物、死者の書を開く。
俺の頭には、生前の妹の笑顔しか無い。何故、妹があんな事に…。認められない。呪物だろうが、何だって利用してやる。

「死者の書ならば、死者に生命を与えるなど容易いこと」
胡散臭い老婆の言葉だったが、俺は信じた。老婆に教わった呪文のような発音で、死者の書の一節を読み上げる。
瞬く間に漆黒の霧のようなものが視界を埋め尽くし、風が頬を撫でて行く。
やがて視界が晴れると、妹はゆっくりと体を起こし、笑顔を俺に向けた。
成功したのだ。俺は力の限り妹を抱きしめる。

不意に家が大きく揺れた。気付けば俺の体には怨めしそうに畳のい草が絡みつき、身動きが取れない。木造の我が家の床や壁、天井が蠢き、まるで憎しみに打ち震えるように、不気味に軋んだ。
そうだ、木も草も、生きて…

彼等は生命と共に、己を切り刻んだ人類へ復讐する機会を得た。
ホラー
公開:21/08/13 18:00

お弁当係

2021年7月、投稿開始。
小説を読むのが好きですが、書くのも楽しそうで始めてみました。
読んでいただければ幸いです。
 

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容