台風の目薬

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気候変動の影響か巨大な台風が頻発していた。
日本列島で「台風銀座」と呼ばれる台風の通過や上陸の多い沖縄、鹿児島の枕崎、高知の室戸岬、和歌山の紀伊半島――警戒を強め戦々恐々だ。
ちょうどそのころ、ある無名の製薬会社では、台風の予想進路図からヒントを得て、薬学と気象学を融合した巨大な目薬を開発中だった。
そしてまたもや今シーズン最大級といわれる台風が、日本の南に位置する北太平洋西部で発生し、北上に進路をとった。
次第に沖縄の離島で暴風雨が強くなったとき、製薬会社の研究所より貨物輸送用の大型航空機が飛び立った。
航空機は、台風の目の真上に到達するとハッチを開け、完成したばかりの巨大な目薬から一滴の雫を落下させた。
すると、台風は瞬く間に勢力を弱め、そのまま消滅した。そして、台風一過が訪れて暴風雨が晴天に一変した。
のちに、台風の目薬は気象庁の御用達となり、製薬会社は製薬業界で台風の目となった。
SF
公開:21/08/07 07:01
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SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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