言葉銀行の苦悩

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我が国には言葉銀行という秘密機関が存在するのをご存知だろうか。同行は言葉の価値や品位を維持するために主に現代語に紐付いた兌換券を発行し、市場に流通する言葉の量を秘密裏に管理ーーこれを言本位性と呼ぶーーしている。

さて、この夏、その言葉銀行を前代未聞の出来事が襲った。言葉の価値が薄れ、言本位性を維持できなくなったのだ。これにはいくつか要因があるが、まず政府が闇雲に兌換券に紐付かない言葉ーー専門用語で「不感詞幣」と呼ぶーーを乱発したあまり、言葉の価値が激しく目減りした。詳しい説明は割愛するが、"緊急"や"最後のお願い"などの空虚な言葉が市場にあふれ、市場は混乱に陥った。

次にSNSの普及も追い打ちをかけた。"悪魔的なうまさ"、"美人すぎる"、"中毒性ハンパない"などの共感の押し売りが巷を席巻し、まっとうな物言いが駆逐されてしまったのだ。言葉のハイパーインフレは一体いつまで続くのだろうか。
その他
公開:21/08/05 18:08
更新:21/08/05 22:31
言葉 風刺 インフレ

アカサカ・タカシ( Chicago )

2022年から米国シカゴ在住。

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