ジャム・ザ・ワールド

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ある日、冷蔵庫の奥に小さなジャム瓶を見つけた。一流ホテルの食卓にさりげなく置かれているような使い切りタイプの小瓶だ。パッケージの一部が剥げ落ちていて中身が何であるかは確認できなかったが、黒みがかった見た目からベリー系のジャムのように見えた。腹が減っていたので、早速バゲットに乗せて口に入れると酸味の効いた甘みが口の中いっぱいに広がった。

こりゃうまい。そのままスプーンを動かす手が止まらなくなった。瓶底の最後のひとさじを平らげた時、舌の上で異物感を覚えた。それはジャムに混じった何ちゃらベリーの種のようだったが、あまり気にも留めずに飲み込んだところ、意識を失った。

気がつくと、自分は喉から胃に流れ落ちる種になっていた。まるでカプセル内視鏡のように粘膜の壁をつたいながら体内をさまようことになるなんて。叫んだところで声も出ないし、閉所恐怖症を発症しそうな耐え難い環境だ。ああ、早く人間に戻りたい。
ファンタジー
公開:21/08/05 03:07
更新:21/08/05 11:43
ジャム 異世界 転生

アカサカ・タカシ( Chicago )

2022年から米国シカゴ在住。

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