海の見えるところ

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さざ波の音が聞こえてくる。正確には聞こえていたのに気がついた。

「いつまでそうしているつもりだい?」

彼女は僕の質問に答えず、うつろうつろ海を見ている。

「君は本当に海が好きだね」
「ええ」

「なにがそんなにいいんだい?」
「わからないわ。ただ、海じゃなきゃダメなの」

「君、泣いてるの?」
「まだ泣いてないわ」

「でもそろそろ引っ越しをしないといけないよ」
「わかっているわ」
「君の気持ちは少しでもわかっているつもりだよ」
「全然わかっていないわ。私の気持ちなんて。私の気持ちなんて……無いもの」

「僕にどうしろっていうんだい?」
「そばにいて。もうすこしあっちにいっていて。もうすこしゆっくり愛して」

さざ波の音が聞こえてくる。
海を見ている彼女を見ている。
その他
公開:21/08/06 15:54

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