夏の憑かれ

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今日は憑かれた。へとへとだ。漢方を飲み忘れると私はすぐに憑かれてしまう。午後は大事な会議が養老渓谷であって、それは裸でおこなう必要があったから、ただでさえ憑かれやすい日に脇腹を見せてしまい、エラ孔から次々に狐やリスや草木の精が入ってきた。そのすべてが取り憑くわけではないけれど、一度私の身体を知ったものは必ず戻ってくる。まして今は憑依禍。わずかな風で憑依はおこる。多くの人は鎖骨にローションを塗って不意の憑依を防いでいるがそれも万全ではない。
会議は決裂して関係者と目撃者を根こそぎ撃って都心の井戸へと帰る。鉄道を乗り継ぐたびにいろんなものが私の身体を通過する。扉や窓や蝶番の精、誰かの嫉妬や理不尽やおはぎ、いくつかのものが私の鎖骨から踝を軋ませて膵臓にたまる。
帰る井戸は枯れていて、井戸底から見る月は蟲に喰われて風に散り次の月が豆腐だと知る。私の鎖骨をかたつむりが舐めて、それですべては祓われる。
公開:21/08/04 13:40
更新:21/08/04 14:23

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