そろばん裁判

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検事の声が轟く。
「全てのアナログ機器がデジタルへの置換を終え、役目を終えました」
被告人席のそろばんは俯いたままだ。
「なのに被告は悠々と居座り続ける。電卓が主流になってもう何年経ったのか」
傍聴席のデジタル機器が頷く。
若手弁護士は隣の空席を見つめた。
「先輩は一体何処に行ったんだよ…」
「弁護人反論はありますか」裁判官の声に我に返る。
やむを得ないと覚悟を決め立ち上がる…と同時に法廷のドアが開いた。
「先輩!」
「被告のそろばん。全く裁かれる筋合いはありません!」
「な、どういう事だ!」突然の事に場内はどよめく。
「静粛に!」
裁判官の声に静寂を取り戻した。

「そろばんは…デジタルなのです!」
「そんな馬鹿な!」
「電子機器である事がデジタルの条件である、というのは思い込みです。デジタルやアナログは概念を指しています」

静まり返った法廷にパチパチとそろばんのすすり泣く音が響いた。
SF
公開:21/11/10 13:27

吉田図工( 日本 )

まずは自分が楽しむこと。

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