匂いのしくみ

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私は匂いの精霊。
精霊だからって優雅に漂っているなんて、とんでもない。
匂いの精霊は働き者。
職場には、たくさんの『匂いの引き出し』が並んでいる。
それをあちこちあけて、調合して匂いをつくる。
丁度今頃は、金木犀の甘い香りを調合することが多く、私もやりがいを感じていた。
なのに、匂いの精霊としてあるまじき失敗をしてしまった。
ガソリンスタンドに給油に行ったときに、引き出しの鍵の束をなくしてしまったのだ。
だから、今は『硫黄系臭気物質』の引き出しだけが開けっ放しになっている。

「先生、一日中ガソリンの匂いがして苦しくてしかたがないんです」
「それは異臭症です。どんな匂いを嗅いでも『ガソリンの引き出し』しか開かなくなった症状です。でも引き出しの鍵さえ見つかれば治ります。まず探しに行ってください」

一刻も早く鍵の束を見つけなければと、私はガソリンスタンドまで走った。
その他
公開:21/11/09 23:45

風薫

第二の人生の趣味探しをしています。
老後、寝たきりになってもできる趣味探しをして、超ショートショートに出会いました(笑)(泣)
 

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