永遠の翼

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その生物は、まるで巨大なクジラだった。巨大を波間に揺らし、悠然と迫ってくる。その生物を守るかのように、小さな鳥が飛び回る。鳥はときおり威嚇するように、こちらに向かってきた。
生物の背中のへそから、灰色の空気が漏れ続けている。
「何を恐れているの?」
振り返ると、新妻の弘子がいた。
「思い切って飛び込むの。この生物と一体化すれば、永遠の命をもらえるはずだから」
弘子はうつむいた。はらりと垂れた前髪が美しいと感じた。
「心配しないで。私もすぐに逝くから」

この瞬間、昭雄は目が覚めた。周囲は薄暗く、前日の宴会の香りが少し残っている。
昭雄は肌身離さず持ち続けた小さな写真を見つめて、語り掛けた。
「ぼくは弘子を守るために飛び立つ。だから、弘子は何があっても生き続けてくれ。それが二人の約束だったはずだから」
昭雄は窓の外を見た。
徐々に白みつつある暁光が、爆装された零戦の翼を銀色に染めていた。
SF
公開:21/11/11 09:14

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