仮想ゴール

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もうすっかり、日が暮れるのが早くなった。
茜色の空を見上げながら、ジョギングを始めた。
20分ほどしたところで心拍数もいい具合になり、汗も額に滲み出てきた。
大通りを走っている頃には、もう辺りは真っ暗になっていた。
もう肌寒いというのに、背中に1714番のゼッケンを付けたマラソンランナーが前方で蹲っていた。
「どうしました?」と声を掛けると
「実は、ゴール直前で倒れてしまい、まだゴール出来ていないんです。」と泣きながら彼は答えた。
私は背番号を見て悟った。
「私が、あなたのゴールを見届けますよ。」と私が仮想ゴールへ向かうと、
彼は立ち上がり清々しい顔でゴールを駆け抜けた。
すると、彼はいなくなっていた。
そう、彼はゴール直前で突然の心臓発作で亡くなったマラソンランナーであった。
もうこの世に思い残すことなく、彼は天国へ旅立てただろうか。
ここはちょうど国際マラソンのゴールだった。
その他
公開:21/11/08 17:19

ひまわり広場( 神奈川県川崎市 )

産婦人科専門医/指導医
@sanadakuma
tama-himawari3w.com
身体は日々の食事で出来ている。
妊婦さんにも食事の重要性について情報提供しています。
ダイエット中の方々にも食事・睡眠・運動の重要性について情報発信しています。
自身が「愛着障害」であることに気付き、もう一人の自分と上手に共生しています。
自分が、自分の『安全基地』になることが生きていくための拠り所なのかもしれない。
科学的な視点からの表現も交えて、ショートショートストーリーを作っています。

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