夜泣きうどん

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『夜泣きうどん、いかがですか?』
 ビジネスホテルのチェックインの際に勧められた事を思い出した。
 寒い。身体が小刻みに震えている。
 レンタカーの助手席で、友人は眠っているようだった。後頭部の傷が無ければ。
「もうすぐ病院だ」
 友人は頷いたように見えた。
「お前を送った後ーー警察に行く」
 友人の壊れた腕時計がガシャリと落ちた。
「事務所の金、手を付けて無かったんだな。お前のロッカーから出てきたってメールが来た」
 友人は何も言わない。
「なのに、訳も聞かずに殴って悪かった」
 病院の受付を済ませ、友人を椅子に座らせて、警察へ行く。簡単な事だ。
 ホテルの夜泣きうどんの香りを嗅ぐと、少し震えがおさまってきた。
「あの、お客様。お車の助手席の方はお連れ様でしょうか?」
 後ろに警察官の姿も見えた。
 ああ、寒い。夜泣きうどんを抱える両手が急速に冷えていく。

 
 
ミステリー・推理
公開:21/11/07 13:46
夜泣きうどんの日

射谷 友里

射谷 友里(いてや ゆり)と申します
十年以上前に赤川仁洋さん運営のWeb総合文芸誌「文華」に同名で投稿していました。もう一度小説を書くことに挑戦したくなりこちらで修行中です。感想頂けると嬉しいです。宜しくお願いします。

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