サイフォン式

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さしたる諍いがあったわけではない。私たちは川沿いに二キロメートルほど歩くと立ち止まった。堤の下の喫茶店に入るとバラバラと分かれて背もたれの低い席に着く。他に客はいない。女店員が注文を聞きにきたが私たちの一人、とりわけ人相のよくない一人がギロリと睨みをきかすと女店員は細い二本の脚を平行にしてその場に立ちすくんだ。黒いミニスカートから伸びた素肌の太腿はこの上なくきめ細やかだ。女店員は「みなさん、コーヒーですね」と勝手に言いおいてカウンターに引っ込む。カウンターでは店長がサイフォンコーヒーを入れ始めた。私たちは自分たちの目論見の違いに気がついた。サイフォン式とは・・。これは違う。一人が立ち上がって「さあ、行こう」とドアに向かった。みんな彼についてぞろぞろと出てゆく。
女店員は店長の顔色を窺った。店長は遠くの堤の並木を眺めている。フラスコには蒸気が溜まっていない。サイフォン式はフェイクだった。
その他
公開:21/11/09 17:25

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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