なおし屋

私の仕事は『なおし屋』
商売道具は、紙とものさし、ペンと消しゴム。
ほらほら、来た。男が暗い顔をして座った。
「あなたの年表をつくります。まず誕生日から。年齢を追って出来事や、やり直したいことを中心にお話しください」
男は、語り始めた。
私は、それに合わせて男の人生折れ線グラフを書く。
「本当に消せるんですよね」
「もちろんです。なかったことにしたい出来事を、線を消すというよりは、点を消す感覚で消してください。」
百万円と交換に、先のとがった消しゴムを渡した。

慎重に1µ消した。
１μ消すたびに、男の顔は明るくなっていった。そして満足げに言った。
「順調に消せている」

「あっ」
っと叫ぶと、私の目の前から男とグラフが消えた。
ああ、手がぶれて誕生した日である最初の点を消してしまったのだ。
私は呟いた。
「たいして悪くなかった人生だったのに、もったいない」