ディストピア

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 くりっくりのおめめ。舌を出し愛らしく擦り付けてくる犬の頭を撫でてやった。
 今日も真っ赤な首輪がよく似合っている。
 もう歳だからと仕事を辞して迎え入れた犬は我が家によくなじんでいた。毎日の散歩は私に笑顔を与えてくれる。
 すれ違った隣人に会釈を送ると、彼もまた犬を連れていた。品種改良の施された不自然に長い胴に不釣り合いなちんちくりんの手足でよたよたと歩く姿が可愛らしい。
 豊かな生活は保証され、ゆったりと流れる日常。
 永劫とも思えた星間飛行に耐え移住してきたかいがあったというものだ。
 電波を用いるようになってから百年程度。時間というまやかしの概念に囚われた人間種を手懐けるのはさした手間でもなく、彼らは労働力兼愛玩動物の地位を確固たるものとしていた。
 私の顔色を伺うように無防備に晒された犬の腹を撫でてやる。
 こんなありふれた日常が続くこの場所をきっと、理想郷と呼ぶのだろう。
SF
公開:21/11/04 06:24

ぴろしき

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 @yosisige

上記アカウントにて駄文を垂れ流しているインターネットポエム揚げパン。
にほんご、すき。

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