正直者が夜の沼にいる

0
3

 深夜、ベッドから半身起き上がってぼうっとしていた。
 明日全てを終わろうとそう決めて、そして今その明日が終わった。僕は今から終わらなくてはならない。
 窓を開けると、肌を刺すような風が吹き込んできた。そこに少し、春の匂いがする。
 寒い海に飛び込もうか。

 僕の家から少し歩くと、大きな沼がある。あまり綺麗とは言えないけど、冷たくて大きな水溜りだ。死ぬには十分だと思う。
 沼にむかう途中に、金銀を敷き詰めたような星々を見つけた。外に出たのは久しぶりだった。
 沼の水面を見つめていると、自分のことが随分と間抜けな気がしてきた。

「あ」

 視界が歪んで、身体中が寒さを訴える。呼吸ができないことに気がついて、水面へと空気を求めて浮上した。
 足を滑らせたようだ。
 あなたが落としたのは金の身体ですか、銀の身体ですか。
「いいえ、僕が落としたのは明日です」
 正直な僕は、翌日風邪をひいた。 
その他
公開:21/11/04 03:53

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容