橋の下で拾われた新婦

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数年前、屋形舟で開かれた披露宴に出席した時のこと。宴もたけなわを迎えたころ、和装に身を包んだ新婦の衝撃的な告白が和やかな船上の空気を一変させた。

「子供のころ父はとても怖い存在でした。私がわがままを言うたびに父はこう言って私を叱りつけました」。「お前はうちの子じゃない。橋の下で拾ってきたんだ」と。新婦は瞳に浮かんだ涙を拭いながら言葉を続けた。「ある日、反抗した私がたった一度だけ言い返したことがありました」。「じゃ、一体どこで私を拾ったのよ」と。

「父は一瞬口ごもり、投げやりな口調で隅田川と言いました。その時の父の困ったような、悲しそうな顔が今も忘れられません。もちろん父の発言が本心でなかったことは理解しています。でも父のことを思い出すたびに、この時の口喧嘩が後悔として思い出されるのです。今日は隅田川に架かる数々の橋の下をくぐることで、亡き父に結婚の報告ができたのではないかと思います」
その他
公開:21/11/06 18:01
更新:21/11/06 18:04
結婚 思い出 東京

アカサカ・タカシ( Chicago )

2022年から米国シカゴ在住。

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