振動のフリル

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秋のコレクションのラストステージ。美青年モデルが真っ白な衣装を纏って中央に進んだ。一枚の布かとみえる裾の沢山のフリルにはそれぞれ真珠の玉のように球形がついている。
「いよいよだ」最前列で大御所のデザイナー氏がつぶやく。
照明が落ちた。「踊り出せ。見せてくれ」デザイナーがささやいた。
モデルは歩を進め腕を振り上げて跳ぶ。同時にフリルの先は青く発光した。発光体の群れが踊りに合わせて軌跡を描く。音楽はない。沈黙の空間に青い光の線が重なってはすうっと消え、止まるとざっと光の塊になる。海月の遊泳である。渾身の自作品とあってデザイナーは目が離せない。観客は魅了され、やがてステージの中央でモデルは静止する。拍手が沸いた。柔らかな照明が彼の美貌を照らし出す。
「声を出さなければいいのだが」デザイナーの期待を裏切るように青年モデルは、野太い声で繰り返した。
「サンキュウ!みなさん、おおきに、毎度おおきに!」
その他
公開:21/11/03 11:37

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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