審美眼鏡

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視力が良好で裸眼の友人が、丸みのあるフレームがおしゃれな眼鏡を差し出した。
「いかにも文化人って感じの装いになれそうなセンスのいい眼鏡だね」
「それが……実はこの眼鏡、外見だけではないの。目利きのことを『審美眼』っていうでしょ。そのような眼を持った人たちの視覚を分析して、この眼鏡のレンズに度数を合わせた『審美眼鏡』という品名なの」
「しんびめがね?」
「そう、漢字で書くとその意味がよくわかるでしょ。審美眼鏡によって、美を見極める眼力を手に入れることができるの。美術鑑賞好きの間では垂涎の的になっているアイテムよ。
ただ、悩んでいることがあって……以前、美術館に展示されていた国宝級の作品を、審美眼鏡を掛けて眺めていたら、贋作だと気づいてしまったの。近くの学芸員さんに伝えようと思ったけれど、変人だと思われても困るから言い出せず、今も良心の呵責に苛まれて……純粋に芸術を楽しめなくなってしまったの」
その他
公開:21/11/03 07:02
視力 裸眼 フレーム 眼鏡 文化人 目利き 審美眼 視覚 レンズ 度数

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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