沈黙

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わたしは、ついこの前、母の子ではないことを知った。
四十三歳の誕生日の六日後の昼だった。
その日の夜に、病院のベッドで母は死んだ。
父はもう何年も前に他界している。
誰なのよ。
わたしが、最後に母に投げた質問になった。
あなたの本当の母親はね、わたしの妹なの。
そう…。
沈黙した。
わたしも、母も。
母を見ると、ベッドの上からじっと天井を見ていた。

母の妹であり、わたしの産みの母らしいその女性は、若くして亡くなっている。
転落死したということしか知らない。
この話は母からも、父からも詳しく聞いたことがなかった。
幼いわたしは沈黙を決めたのだ。
この話を聞いたときの母の表情が冷たく、恐ろしいものだったから。
母の遺影は笑っている。
一つ思い出したことがある。
母は自分の妹を名前で呼ばず、「あの人」と呼んでいた。
あの人はね、悪いことしたから、死んじゃったの。てんばつが当たったんだろうね。
ホラー
公開:21/10/27 19:47
更新:21/10/27 20:03

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