口実

別れを告げられるも未練たらたらの私は何かと理由をつけて彼に会いに行く。
だが最近はその理由も尽きてきた…どうしよう…
「口の実食べてみたら？」と友人に教えられた。
「口の実はね、種まで食べると口実が生まれる実なの。…私、一つ持っているんだけど食べてみる？」
赤い枝豆のようなそれは唇の形をしていた。半信半疑で食べてみる。
すぐにお腹の中から彼に会う為の口実が湧いきた。凄い！これがあればこれからも彼に会える！
それからというもの私は口の実を食べ続けた。食べて彼と会い続けた。
最近では彼の方から私に会いに来てくれる。これはもうヨリを戻したも同然ね。
今日も彼は私に会いに来た。
「凄く立派な樹木になっている。これでもうストーカーに怯えなくてすむ」
彼は安堵の表情を浮かべる。
「実のある人生になって良かったわね」
口の実の種が体内で発芽し、口の木となった私に友人はそう告げると彼と幸せそうに微笑んだ。