最期の記憶

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幾度と酒の席で最後の晩餐を議論したが肝心の何を食べるかの記憶は無く、普段と変わらず食パンを頬張った。
TVではヘルメット姿のキャスターが半ばやけくそ気味に不毛な避難を呼びかけている。
達観している訳ではなく別に諦めたわけでもない。
ただ事実に自分が追いつかない。
仮に愛する家族でも居ればしっかり一家の長を果たすだろう。
8階窓から眼下を望むと花火大会直後の風景が広がる。
天を仰げば巨大な花火が地球に打ち下ろそうとしている。
打ち下ろす?上下なんてコッチの勝手な決め事かと呟く。
SNSには巨大隕石の画像がアップされ続け、この窮地でも皆お務めを果たすのかと感心した。
いや、こんな時だからこそかと一眼レフを隕石に向ける。
『写真はな…』カメラから声がした。
『暫く経って記録から記憶に変わって初めて完成する』

視線を下ろし街並みを写す。あっちで現像を頼もう。
親父の形見の一眼レフはフィルム式だ。
SF
公開:21/10/25 11:19
更新:21/10/25 14:13

吉田図工( 日本 )

まずは自分が楽しむこと。

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