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収容所の中庭で11時が鳴いている。
一本だけひょろりと生えた柿の木もどきの熟れた実を老いた9時や10時がついばんでは飛び去ってゆく。あたりはもう11時と呼んでいいだろう。
巡回中の若い衛兵が土から這い出た正午の雛をてのひらで弄ぶのを見たとき、私は炎芯がつぶれるほどの痛みをおぼえた。それは若さゆえの時間つぶしなのだろう。しかし時の表面は繊細で人肌に触れると凍ってしまうこともある。
「それは未来よ、あなたよ」
衛兵は窓辺に立つ私を見上げると舌打ちをして雛を地面に放った。駆けつけた上官は声を発することなくその衛兵を射殺し、部下たちは零れた水をただ拭き取るように遺体を運んでいった。上官は私に敬礼すると拳銃をこめかみに当てた。
「その必要はないわ」
しかし上官は厳格に果てた。
私は万世一系の時を生む炎。生まれた時は土で育ち鳥と空に羽ばたく。時を見つめ忘れることは構わない。ただつぶすことだけは許さぬ。
公開:21/10/24 11:36
更新:21/10/24 15:10

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