悪魔のボタン

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大きな押しボタンの前に
じつに気の弱そうな男がひとり。

傍らには悪魔が控え、こう囁きます。

「これは運命のボタン。
 あなたが大切に思うひとがたったひとり死ぬだけで
 一生遊び尽くしてもあまる富を、得られるのですよ」

男は、生来の気の弱そうな顔をさらにゆがめ
悪魔はさらに、微笑みます。

「さあ、押しておしまいなさい」

男はついに、ボタンを押し
同時にぱたりと、倒れてしまいました。


悪魔はしゃがみ込み、男に息のないことを確認すると
大きなため息を、ひとつつきました。

「人間の富への欲望は古来より変わらないが
 変わってしまったのはその、価値観。
 いまは個人の時代とやらで、誰もかれも
 自分自身が一番大切になってしまった。
 こんなに気の弱そうな男ですら、こうなのだから
 もうわたしは、おまんまの食い上げなのかもしれない…」

そう、項垂れた悪魔の背後には、大量の人間の骸が。
ファンタジー
公開:21/10/19 22:19

よこたちかこ( 東京都 )

小学校5年生から、星新一が好きです。
頑張ってちょこちょこ、物語を書きたい。

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