ミルクティーを忘れない

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子供の頃の話をしよう。

地域で起きた孤立無援のいじめが2年近く続いた頃、突如家に一人の子が謝りに来た。
隠れるようにその子の家へ行くと、いつもおばさんが大歓待してくれた。
皿に盛った豪華なお菓子。
子供には立派過ぎるティーセット。
甘く香る湯気の立つミルクティー。
私は子供心に、おばさんの深い労りを感じた。

後に聞いたことだが、娘がいじめに加担していると知ったおばさんは、それは厳しく娘を叱ったのだそうだ。家に呼んで一緒に遊びなさい、と。
その後もいじめは1年ほど続いたが、四面楚歌の暗闇に差し込んだその光が唯一の希望だった。

今も傷ましい事件を見るたびに思う。この子達の傍にミルクティーを淹れてくれる大人がいれば、と。私は幸運だったのだ。ひとつ間違えば、私の歩みもどうなっていたか判らない。

Fちゃんのお母さん。
あの時の御恩と温かいミルクティーは忘れません。
どうかいつまでもお元気で。
その他
公開:21/10/19 13:42
更新:21/10/19 13:45
お菓子はマドレーヌが多かった だから今でも マドレーヌが好き とても優しい味がする #141

秋田柴子

2019年11月、SSGの庭師となりました
現在は主にnoteと公募でSS~長編を書いています
留守ばかりですみません

【活動歴】
・東京新聞300文字小説 優秀賞
・『第二回日本おいしい小説大賞』最終候補(小学館)
・note×Panasonic「思い込みが変わったこと」コンテスト 企業賞
・SSマガジン『ベリショーズ』掲載
(Kindle無料配信中)

【近況】
 第31回やまなし文学賞 佳作→ 作品集として書籍化(Amazonにて販売中)
 小布施『本をつくるプロジェクト』優秀賞

【note】
 https://note.com/akishiba_note

【Twitter】
 https://twitter.com/CNecozo

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