仕掛け絵本

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学生時代、世界中の仕掛け絵本が揃う珍しい書店があった。
店内の書棚には、国や地域別に仕掛け絵本が所狭しと陳列されていた。
すると、「その他」のコーナーに仕掛け絵本が一冊棚差しされていた。背表紙には『My Life(私の人生)』とある。
何気なく手に取ると、カバーは無地で、絵本にあるはずのイラストがまったく描かれていない。
最初の一頁を開いてみると、見覚えのある街並みが飛び出してきた。これは私が生まれ育った家のあたりだ。家の中からは赤ちゃんの泣き声が聞こえる。
数頁めくると、私が通う学校の教室が飛び出してきた。聞き慣れたチャイムの音がする。
この仕掛け絵本は、過去、現在、未来ーー自分が歩む人生の場面が飛び出してくるらしい。
まだ十数頁あったが、めくることを躊躇した。なぜなら、未来の自分のことを事前に知ってしまうからだ。
未来は自らの手で切り開くものだから、仕掛け絵本をそっと元の書棚に戻した。
青春
公開:21/10/17 07:17
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山田衆三( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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