別れ

　僕はあの日なんて言ったのだろうか。
　あんなに好きだったのに忘れてしまった。
　思い出したくないのだろうか。
　何かあの子がつぶやいている。そこだけは確かに記憶に残っていた。
　こうして一人になると思い出す。
　今日で８９人目のごめんなさい。一体俺の何が悪いのだろうか。どこをどう見ても普通のはずだ。髪は坊主。ひげはない。つるつるだ。脚だって鍛えてる。僕の乳母車だってしゃれてるのに。
　僕は記憶力が悪い。ミルクくれって言ってるのに、だれにも通じない。僕に答えてくれるのはママンだけだ。だけど、僕の告白は誰にも通じない。
　腹減ったなあ。
「うえええん、えーーーん」
　よし来た。
「おいおい、どうしたでちゅか」
「けっ」
「はいはい、ごはんね。ちょっとまってね」
　ママンはいい人だ。だけど、ママンのミルクはうすいんだ。温かいけど、うすいんだ。
　僕は今日、ママンのミルクから離れる決心をした。