裏返しのカエル

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真珠湾攻撃から三年がたち、世の中は戦争一色だった。駅は出征する兵士を見送る家族でごった返している。
本土にも戦況の厳しさが漏れ伝わり、世の中の空気は灰色に染まりつつあった。
多恵子は出征する恋人の忠道にカエルの小袋を渡した。もちろん「帰ってきて」との願いを込めての贈り物だ。
忠道は喜びながらも、困惑の表情を浮かべていた。本音を口にできない時代だ。
「見つかったらまずいけど、これならバレないかな」
忠道は小袋を裏返して、肌着の中に差し込んだ。
暫くして、忠道は戦場に出ることなく、本当に帰ってきた。なぜか声がキンキン声になっていた。
「体は元気だけど、急に声がおかしくなったんだ。情けないことに軍医からお前は伝染病の恐れがあると言われて強制送還さ」
恥ずかしがる忠道を、妙子は抱きしめた。
「きっと、裏返しのカエルのおかげ。声が裏返しになって、カエッてきたのだから!」
青春
公開:21/10/15 15:24

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