迫るカリカリ

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先週は堺筋を贈ってくれた夫が今日は御堂筋をどうぞという。すっかり落ちた筋力に夫の優しさが沁みる。
人工呼吸器がはずれ4人部屋の一般病棟に移った私はリハビリの毎日。長引く入院生活で眠れぬ夜も多い。夫がハッキングしてくれた監視カメラの映像だけが波打つ神経を穏やかにしてくれる。
午前3時の御堂筋。降りやまぬカリカリ。緊急事態宣言下の大阪では路上に落ちたカリカリがおそろしい繁殖を繰り返す。おびただしい数のカリカリを野良猫や鳩やカラスと全国から集結した野々村さんがおなかいっぱいに食べてこの御堂筋と世界を守っている。街路のいちょうが首を垂れてカリカリを掃き次々に飛来する野々村さんがそれを食べる。動植物の連携に私の胸は熱くなる。
隣のベッドからカリカリを皿にあけるような硬い音が聞こえて、カーテンの隙間から患者用の簡易トイレで用を足す看護師の姿が見える。カリカリ。カリカリ。私はふとんに潜り朝の検温を拒む。
公開:21/10/13 08:48
更新:21/10/13 08:49

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