0
2

ようやく捕まえたエミューはさがしていたエミューとは違っており、エミューとそのご家族には大変申し訳ないことをしてしまいました、とテレビカメラの前で謝っているひとがいる。私は体に巻きついた縄を解きながらそのひとの言葉を反芻してみた。エミューを愛してくださる世界中の方々と関係者の皆さまにご心配とご迷惑をおかけしました。ふうん。私が彼女に縛られているあいだにいったい何があったのだろう。緊縛中は乳液の中に身を沈められるから世間とは隔絶される。私はきっと彼女に逢うことや縛られることよりもそういう隔絶に歓びを感じているのだろう。
彼女と別れ、村の観光ホテルに寄り、村一番のバーテンダーがつくるエミューの涙を飲んだ。このホテルのエレベーターにはエレベーター老夫婦がいて、ほろ酔いの私を穏やかな笑顔で案内してくれる。
「鹿へ参ります」
私はおふたりと食んだり食まれたりする姿を思いながらすべすべの肌を指で駆けた。
公開:21/10/09 09:23
更新:21/10/09 09:41

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容