香瓶(かびん)

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 母の好きな薔薇を買って、久しぶりに実家に帰省した。
「お母さん、ただいまー」
 玄関に入ると強い花の香りがした。棚には立派な花瓶が置いてある。が、花はない。
「お母さん、これ何? 花の香りしない?」
 母によると、この花瓶は『香瓶』といって、花を活けなくても良い香りがする、珍しいものなのだそうだ。
 さっさと台所に戻った母についていくために、私は薔薇をその香瓶に押し込んだ。
 
 次の日、私は町の骨董屋で泣きながら店主と話をしていた。
「お母様は貴女に言い忘れたのですね。あの香瓶には決して花を活けてはいけないと。あれは何百年もかけて作られた花の精の棺です。生きた花を餌にして実体化した花の精が、貴女の生家を呑み込もうとしたのです」 巨大化し、家を呑み込もうとした花の精。私があの香瓶を割ったおかげで母は助かった。花なんてもうこりごりだ。
 ふと気づく。この店主からは、とても良い香りがする。
その他
公開:21/10/08 21:33

深月凛音( 埼玉県 )

みづき りんねと読みます。
創作が大好きな主婦です。ショートショート小説を書くのがとても楽しくて好き。色々なジャンルの作品を書いていきたいなと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
猫ショートショート入選『ミルク』
渋谷ショートショートコンテスト優秀賞『ハチ公、旅に出る』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[節目]入賞『私の母は晴れ女』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[縁]ベルモニー賞『縁屋―ゆかりや―』

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