こまやか村

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彫金や金銀の細工を仕事にして、修行を兼ねて諸国を歩く職人がいた。
ある時、職人は“こまやか村”という村に着いた。彼は村の案内役に、仕事があるかと尋ねた。

案内役は言う。「貴方は手先が器用ですか」
「はい」
「ここでは小さな細工ができるほど、必要とされます。外からは見えない所で贅沢をする習慣があるのです」
「例えば?」
「最近は趣味で虫を飼う村人が多く、かぶと虫に金細工の着物を着せる事が流行です」
「かぶと虫に着物!?」職人は目を丸くした。

案内役は続ける。「小さな所にお金をかけるのですよ。人の趣味は“小さな楽しみ”ですね。そうした細かい仕事には、お高い代金を払います」

そこで職人は、村の中を歩いてみた。村ではほとんど贅沢品や高級品は売っていない。そう、贅沢は心の中にある、という考えだった。

結局、彼は村をあとにした。「究極の一点豪華主義の人は、住みやすいだろうな」とつぶやきながら。
ファンタジー
公開:21/10/10 15:27

tamaonion( 千葉 )

雑貨関連の仕事をしています。こだわりの生活雑貨、インテリア小物やおもしろステーショナリー、和めるガラクタなどが好きです。

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